ウォンバットの突然死について

オーストラリアには数多くの有袋類が野生で生息していることは皆さんよくご存知のことでしょう。有袋類自身は世界中に分布していますが、オーストラリアではもともと大型の肉食動物がいなかったこともあり、多様な有袋類が生息しているのが特徴です。

 

強い脚力で移動することで広い生活圏を確保している「カンガルー」、そして移動は少ないが、高い木の上での安全な生活圏を確保した「コアラ」、食事以外は土穴や木穴での生活圏を確保した「ウォンバット」などがあげられます。同じ有袋類でもそれぞれの生存環境を確保し、争いを減らすことでこれまで共存してきました。

 

カンガルー
カンガルー
コアラ
コアラ
ウォンバット
ウォンバット

 

そんな中、2012年5月15日のオーストラリアの国営放送(ABC)で、一部の地域だけのウォンバットが突然の病気で数百頭が病死したとのニュースがありました。(ABCニュース内容はこちら) 

 

アーガイルディッシュではカンガルー肉(主にグレイカンガルー)をワトルキャットドライフードに使用しております。そのため 「同じ有袋類のウォンバットが食べている草をカンガルーも食べてしまわないか?」とのご心配の方もおられると思い、独自に調査を行いました。

 

●報道発表: 2012年5月15日

 

●発生場所:

南オーストラリア州とビクトリア州の州境のマーレイランド(Murraylands)。アデレードから東に60-80kmのマーレイ川に沿って広がる国立公園地域。アデレードから車で1時間ほどなので週末など市民の憩いの場となっています。地域では川下りやブッシュウォーキングなど楽しめ、1870年代に建てられた街並みもある古きよきオーストラリアが味わえる今では数少ない場所です。(以前一度車で通ったことがありますが、内陸地の荒野と川沿いの新緑が混在した、風光明媚な場所でもあります)

詳しい場所についてはこちらで

 

●ウォンバットについて

ウォンバットは大きく3種に分類される。

1)Northern Hairy-nosed Wombat (オーストラリア北部に分布)

2)Southern Hairy-nosed Wombat (オーストラリア南部に分布)

3)Bare-nosed Wombat (NSW州からVIC州の海岸線に分布)

  Common Wombat とも呼ばれる。

今回、被害にあったのは2)のサウスへアリーノーズウォンバット。

ウォンバットについてはWIKIPEDIAにて


●被害内容:

体毛が抜け落ち、最後は動けなくなって餓死に至るもので、外来種の有毒な植物を食べたことが原因とみられている。おそらく肝臓病であるとのこと (APP通信より)

 

アデレード大学のボードマン研究員によると、もともとウォンバットは草食であるが、ここ数年たび重なった洪水や旱魃などの交互の被害により土地がやせ、食べ物が減り、普段は食さない人間が持ち込んだ「玉ねぎ」や、「ジャガイモ」の芽などの「外来種」を食べたことで肝臓の機能が失われ、餓死したものと考えられるとのこと。(ABC放送 小職抄訳)

 

歴史をたどりますとオーストラリアには、もともといなかった牛や羊が放牧されるようになってから、ウォンバットは土に穴を掘って巣穴を作るために、その穴に耕作機械が挟まったり、家畜の足が穴にはまり足を折ったりと、「害獣」として駆除された歴史があり、現在は保護されているものの、生息域は限られています。 そんな中、地球温暖化の影響でオーストラリアはここ数年エルニーニョの影響を受け、大雨洪水、または旱魃が続いたりと、ますます野生動物の生息環境は厳しくなっています。

 

今回の異常死についても、食べ物が減ったことで、猫が玉ねぎを食べてはいけないと知られているように、ウォンバットも何かそれらに類するものを食べたことで肝臓を壊し、大量死につながったのでしょう。 このところの洪水で食用の農作物が流され、種子が耕作地以外で群生化した可能性も排除できません。

どちらにしましても我々人間がもたらしたことによる被害者のようにも思えてきます。

 

 

カンガルー肉に対する影響について:

 

カンガルーもウォンバットも有袋類ではありますが、生息環境が異なるために今回の大量死の影響がカンガルーにも及ぶのかは結論付けられておりません。カンガルーは広域を移動しながら餌をとることに対し、ウォンバットは狭い地域での生息になるためにその土地がやせた場合のみに移動することがわかっており、今回の被害もマーレイランド地域のみで発生したことからも、カンガルーに対して同じような影響が起こることは考えにくいといわれています。

 

アーガイルディッシュでは念のためにもオーストラリアの農水省及び、カンガルー等の野生動物研究機関や検疫などを管理する機関を中心に調査を行ってみましたが、現在のところはそのような問題は起こっておりません。(以下の機関) 

 

Department of Agriculture, Fisheries and Forestry’s(DAFF)

   (オーストラリア農水省:動植物全般情報)

Australian Quarantine and Inspection Service(AQIS)

 (オーストラリア検疫局:輸出や検査等に関する内容確認)

Rural Industries Research and Development Corporation(RIRDC) (オーストラリア地方産業調査開発団、カンガルー肉など

の安全性等)

 

 

 

まとめ:

アーガイルディッシュでは直接生産者にも確認をとりましたが、NSW州北西部地域からのカンガルー肉を使用し、被害地からは1100km以上離れている場所であるので、直接的な影響はないとみてよいとの報告をうけております。

ウォンバットの健康被害による大量死については、悲しい出来事であり、我々人間も考えさせられました。 我々人間の都合がウォンバットを含め、オーストラリアの野生動物にこれ以上影響を与えないことを願っています。 自社の商品の宣伝になってしまいますが(笑)、なるべくは農薬を使う土地を減らし、昆虫、魚、野生動物に農薬の影響を及ぼさない環境にやさしいオーガニック農法がさらに進むことを願っています。

 

補足:(おまけ)

オーストラリアには牛が2700万頭、羊は8000万頭、そしてカンガルーは2400万頭ほどいますので、この国の対策性格上、ウォンバットの病死の原因が他の家畜に影響を及ぼすことがないか、必死に調査を行っていることは想像に難くなく、近く詳細な結論がでることと思います。

(蛇足ですが、オーストラリアで大学進学する場合、最も難しいとされる学部はなんでしょう? 日本では一般的に医学部ですが、ここオーストラリアでは獣医学部なんです。 なにせ人間の数より家畜の数の方が多い国であり、そして今回のようなウォンバットの突然死など、究明調査することも多く、優秀な獣医や研究者が多く必要とされているためです)