(2)ディンゴの保護からそれは始まった

オーストラリアには有袋類であるカンガルーをはじめ、コアラなど特徴的な動物が多くいます。

その中で「ディンゴ」という野生の犬がいます。約1万年前にオーストラリアの原住民であるアボリジニが連れてきたとも言われており、彼らは家畜としても飼われていました。おそらく今の東南アジアから来たと言われ、ディンゴは有袋類ではありません。(蛇足ですが、星の監督が中日監督をしていた際、ディンゴと呼ばれるオーストラリア選手がいましたね)

Dingo
Dingo

オーストラリアの生態系のトップにいた肉食獣としては、ディンゴの他にどちらも有袋類のタスマニアンタイガー(絶滅)、タスマニアンデビル(絶滅危惧種)がいます。

 

それぞれ生態的地位争いましたが、群れをなすディンゴが圧倒的な勢力で主導権をとり、現在はタスマニアンデビルがタスマニア島でごく少数生息するだけとなりました。当然ながら、肉食獣で凶暴ということもあり、人間の都合で駆除され、激減してしまったのが大きな要因でもあります。

 

一方、ディンゴはというと、人間が入植当時はタスマニアを除くオーストラリア全土にほぼ広く分布し、現在は生態系トップに君臨しています。では、同じ肉食獣なのにディンゴだけ現在、野生として生き残っているのはなぜでしょうか?

 

その理由は①もともとカンガルーのように広く分布しており駆除の効率が悪かったこと ②非常に警戒心が強く凶暴なため捕獲が困難 ③他の肉食獣の絶滅危機の反省もあり、保護しながらの方針に切り替えたこと。

 

があげられます。

しかし、ディンゴは肉食獣ですから、人間に危害を与えることもありますし、当然1億頭以上いる牛や羊の中で一緒にさせたら今度はディンゴの数がものすごいことになってしまいます。

 

そこでオーストラリアが取り組んだのが、(我々日本人からは想像が難しいですが)、ディンゴと家畜を分離するために(ディンゴの生息域を確保するために)総延長5600キロ以上(初期は8000Km)の5mフェンスを作ったのです。

ディンゴフェンス(ピンク線の部分)
ディンゴフェンス(ピンク線の部分)

イメージがわかないと思いますが、仮にこのフェンスで囲いを作ってみると、その中に日本全土がすっぽり5つ入る広さとなります。

果てしなく続くディンゴフェンス
果てしなく続くディンゴフェンス

まぁ、よくもここまでの努力をしたものだ。ディンゴから家畜を守るために、と感心させられます。裏を返せば、ディンゴを絶滅させることなく共存を可能にしたのです。

 

このフェンスができたおかげで現在オーストラリアでは牧畜エリアと野生動物の保護区を分割することに成功し、この成功がオーストラリア国民のその後の環境保護意識を同時に高めたとも言われています。

 

話が長くなりましたが、カンガルーの数が増えたお話に戻ります。

 

ディンゴはフェンスの外で生息していますが、カンガルーについてはフェンス内でも、それこそ、郊外のゴルフ場に行けばゴロゴロ生息しています。そうなんです、カンガルー達にとっては天敵であるディンゴがフェンスの向こう側になり、また国民の環境保護意識が高まっていることも重なり、駆除されずに急速に増加してしまった。という弊害が起こってしまったのです。

 

(3)へ続く